MARE
海を学ぶ参加体験型
海洋教育プログラム
MAREは米国で開発された海洋教育プログラムです。幼稚園児から小学6年生までを対象にした参加体験型の楽しいアクティビティがたくさんあります。海研は、ジャパンMAREセンターを運営して日本でのMAREの普及を進めています。
MAREは、海や海の生物、環境問題などについて学ぶためのアクティビティ集です。
カリフォルニア大学バークレー校付属ローレンス科学教育館(LHS)で開発され、幼稚園児から小学6年生までの子どもたちが、教室内(屋内)で自ら参加し体験しながら学べるプログラムとして体系化されています。
海研では、カリフォルニア大学との契約に基づき、日本における普及拠点としてジャパンMAREセンターを設立、運営し、MAREティーチャーズガイドを翻訳して日本版としての改訂、指導者育成、MARE実践をおこなっています。
目次
リスト
幼稚園 <池>
- 水がいっぱい
- ちいさい池
- 池をつくろう!
- だいじな庭
1年生 <磯>
- 海辺のシャレード
- 海辺でハプニング
- ザリガニのひみつ
- 私は誰でしょう?
- タイドプール・ブギ
2年生 <砂浜>
- ビーチコーミング
- 舞台の上の砂
- ヤドカリが教室にやってきた!
- 貝殻の分類
- 君はアシカか?アザラシか?
- 砂の浜辺を作る
3年生 <ウェットランド>
- カキのはなし
- アサリのすべて
- ザリガニ大研究
- 水鳥たちのウェットランド食堂
4年生 <海中林>
- 赤い魚を探せ!
- 魚をつくろう!
- 魚!サカナ!さかな!
- ラッコ・ウルトラクイズ
- 海藻バイキング
- 海藻の森をつくろう!
5年生 <外洋>
- リンゴと海
- 海の惑星
- 廃棄物処理
- 海流の向き
- 氷のデモンストレーション実験
- プランクトン・レース
- イカ - その外側と内側
- クジラになろう!
6年生 <島嶼>
- 砂の物語
- ミロンガ・ミロンガ
- サメとの遭遇
- 島をつくろう!
MAREはどうして年齢別になっているの?
使う資料や使う言葉の難易度を変えながら、同じテーマの学習をいろいろな年齢向けに行うというやり方は多くありますが、リストのとおりMAREでは、学年ごとにアクティビティが用意されています。
それぞれのアクティビティは、その学年で学ぶ算数・国語・図工など、さまざまな教科の学習要素を取り入れ、その年齢で学ぶ身につけるコミュニケーション能力の向上、子どもたち同士の学び合いや社会的スキルの習得にも配慮したアクティビティとなっているため、年齢別に開発されているのです。
年齢別に取り上げるテーマは具体的に言うと、、
もうひとつ年齢別で違うのは、各年齢(学年)のアクティビティがテーマとする「生息環境」です。
リストの学年名の右にある<>内は、その学年のアクティビティがテーマとする生息環境を表しています。
学年ごとにそれぞれ、池(幼稚園)、磯(小1)、砂浜(小2)、ウェットランド(湿地)(小3)、海中林(小4)、外洋(小5)、島嶼(小6)がテーマですが、これは、身近にある池から遠くにある島々まで、少しずつ視野を広げていけるような順番になっています。この環境の順番は、MAREが開発されたカリフォルニア州バークレーという地域の子どもたちにとっての「近くから遠くへ」となっています。ご自身のお住いの場所によっては順番が違うこともあると思いますが、アクティビティの設計は「発達段階順」になっていますので、たとえあなたにとって島嶼が一番身近な環境だとしても、島嶼のアクティビティは幼稚園向けではなく6年生向けにおこなってください。
これらの生息環境には、池では動きのない水の環境、磯では打ち寄せる波が特徴的な環境などそこで起こる自然の現象や生物たちの営みに違いがあります。MAREでは、学年ごとに異なる生息環境を取り上げ、それぞれの生息環境について学習すべき主要概念と年齢に合わせた学習要素の複雑さを整理してアクティビティを開発しています。
学年 | テーマとする生息環境 | 主要概念 | 学習する概念の具体例 |
---|---|---|---|
幼稚園 | 池 | 多様性と単一性 規模と構造 変化の傾向 |
水の性質、生物の特性、生活環、生物と生息環境 |
小1 | 磯 | 水の性質、潮汐、波、岩、適応、生息地、種、安全、大切に扱い敬うこと | |
小2 | 砂浜 | 変化の傾向 規模と構造 エネルギー |
潮汐、波、砂の作られ方と運ばれ方、食物連鎖、適応、生活環、ゴミ、汚染、油の流出 |
小3 | ウェットランド (湿地) |
エネルギー 体系と相互作用 規模と構造 |
潮汐、水の混ざり合い、食物網、資源分割、適応、生活環、生物蓄積、生息地の喪失 |
小4 | 海中林 | 変化の傾向 体系と相互作用 エネルギー |
季節生産性、太陽光、波、塩分流、密度、適応、食物網、生態的滴所、天然または栽培資源 |
小5 | 外洋 | 体系と相互作用 進化 安定性 |
季節、気候パターン、海流、海水の性質、自然淘汰と進化、食物ピラミッド、海洋ごみ |
小6 | 島嶼 | 進化 多様性と単一性 体系と相互作用 |
潮汐、プレートテクトニクス、火山活動、砂のでき方、水深測量術、住みつき、遷移、適応、種形成、生物多様性、生活環、生息地の喪失、自然保護 |
ティーチャーズガイドと教材について
現在までに44のアクティビティが公表されており、それぞれのアクティビティはティーチャーズガイドとしてまとめられています。ガイドには、海洋科学の専門家でなくても海洋教育実践ができるよう、使用する教材の数量、準備の仕方、進行シナリオ、指導者用の背景知識などが詳しく書かれています。
- ティーチャーズガイドの構成
- 概要…このアクティビティで取り上げるテーマ、アクティビティの進行、学習者が学ぶ概念について、概要を紹介しています。
- 用意するもの…アクティビティに必要な物品とその数量が記載されています。
- 準備方法…入手しておくもの、書き出して掲示できるようにしておくもの、使用する物の準備方法、それらを繰り返し使うためのヒントなどが書かれています。
- アクティビティの進行…セッションごとに、学習者の席の配置、進行の仕方(声のかけ方や質問のせりふ)、予想される学習者の反応、教材を使用するときの注意点、進行に取り入れる活動手法などが詳しく書かれています。
- アクティビティでの学習を発展させるアイディア…このテーマを継続して学ぶときに参考にできるよう、調べ学習の進め方、校外学習への展開の仕方、学習者が家族と学習を深めていくためのアイディアなどが提案されています。
- 背景情報…とりあげるテーマや概念に馴染みのない指導者が参考にできるように、要点を押さえた背景情報がまとめられています。
- 教材に関する資料…コピーして使えるイラストや、準備するポスターの見本などが掲載されています。
- 教材
アクティビティの教材はティーチャーズガイドの指示どおりに作りますが、いったん揃えてしまえば、繰り返しアクティビティを実施する際の準備の手間はほとんどかかりません。使用する材料も特殊なものはなく、手に入れやすいものでほぼ自作できます。
ジャパンMAREセンターではMARE教材セットを用意しており、MAREリーダーへの貸出も対応しています。
アクティビティ全体に共通すること
MAREのアクティビティは、カリフォルニア大学バークレー校付属ローレンス科学教育館(LHS)の体験型教育プログラムの開発専門家が中心となり、海洋科学者と教育学の研究者からなるチームによって開発されました。
アクティビティは、海や海の生物、海の環境問題などについて、仮説を立て、それをもとに実験を組み立て、結果(データ)を分析するといった、科学的な知識や手法、考え方が身につくように作られています。またアクティビティは、受動的に知識を受け取るのではなく、学習に参加し体験しながら能動的に学ぶように設計されています。
すべてのアクティビティは、ローレンス科学教育館で研究され実践されてきている「ラーニングサイクル」という学習の流れに沿って作られています。「ラーニングサイクル」は、人の学び方に関する研究(認知科学)の知見に基づいて提唱されたもので、子どもたちの好奇心をかきたて、無理なく能動的に学べるだけでなく、学んだことを振り返ることによってさらに学習を進めたり深めたりしていけるよう促すモデルです。
また、アクティビティの進行では、子どもたちが自分たちの既有知識を確認し学習で得た知識を振り返ることができる方法や、他の子どもたちの中で気後れせずにアクティビティに参加し、自分の意見を出しやすくなるような学習場面の作り方、その日に学習したことを言語化して声に出し知識の定着を図る方法などが随所に取り入れられ、アクティビティでの学習体験が質の高いものになるよう教育学の知見が活かされています。
すべてのアクティビティは屋内(教室など)で実施できるようにつくられており、実際の海辺へ出かけていかなくても海について学ぶことができ、実施のための大きな負担がないことも大きな特徴です。
MAREの使い方
MAREを使った海の学習をする授業をするのには次のようなパターンがあります。
- 自分が指導者になってMAREを使った授業ができるようになる
MAREを使って授業やワークショップをしてみたい、という方は、ジャパンMAREセンターが開講する2日間のMAREリーダーワークショップを受講して、「MAREリーダー」の資格を取得していただきます。
2日間のリーダーワークショップでは、4つのMAREアクティビティを体験し、その背景にある考え方や指導のポイント、教材の準備方法などを学んでいただきます。受講者には、2日間で学んだアクティビティのティーチャーズガイドをお渡しします。 - 学校の授業にとりいれる
MAREは、学校の授業で使うのに適しています。同じ年齢の子どもたちが一緒に学んでいる場で、その学年に該当するアクティビティで学べば、教科学習で学んでいる内容や学校生活で身についている社会スキルなどを使う場面が出てきます。子どもたちにとっては海洋についての学習だけでなく、教科の授業で学習したことを復習したり応用したりするよい機会になります。
そのほか、水辺や水族館、博物館などへの校外学習の事前学習としてMAREで海洋学習をするのも大変効果的です。MAREは机上でコントロールされたバーチャルなもので学ぶ学習体験なので、学習の主題を確実に学ぶことができます。そのようにして学んだことが、本物に触れたときの学習体験を補完し知識を整理します。
海研で実施するMAREは、Let's Do it!をご覧ください。 - 水族館などにとりいれる
水族館や海辺のネイチャーセンターや水族館などでもMAREを実施しているところが数多くあります。それは、MAREが本物の海や生物に出会う、入口のプログラムとしても大変優れているからです。
水族館などで開催されている来館者イベントで実施することが多いですが、学校で行うのとは違い、子どもたちの年齢も学んでいる環境も揃っていないことがほとんどなので、アクティビティの進行に少しコツがいります。こういった場でMAREを実施するリーダーには、養成講座でそうした指導の工夫についても学べるようにしています。
MAREの資料
MAREについての参考資料を紹介します。
- 海研が発表した研究論文
都築章子・今宮則子・藤田喜久・平井和也・クレッグストラング、2013.「海洋科学教育・海洋科学コミュニケーション教材としてのMAREの役割」.科学技術コミュニケーション第14号、pp.32-43.
- MAREを開発したカリフォルニア大学バークレー校付属ローレンス科学教育館(Lawrence Hall of Science)のウェブサイト
- MAREのウェブサイト
いくつかのアクティビティの進行例
代表的なMAREアクティビティ
(1)水鳥たちのウェットランド食堂(小学校3年生対象・ウェットランド)
湿地と、そこを隠れ家や渡りの補給地として使っている無数の水鳥たちの生態を理解するためのアクティビティです。水鳥たちの群れは、同じ場所で同時に食べ物を食べていますが、食べ物を取り合うことはほとんどないのはなぜでしょうか。このアクティビティでは、水鳥たちが、その体やくちばしの形、食べ物の好み、行動パターンに合った特定の食べ物を食べていること、そして、水鳥たちの食べ物となる種類の異なる多くの生物が生息していることが、その湿地で多くの水鳥たちが共に生きられることを学びます。
アクティビティの大まかな流れ
このアクティビティでは、ビデオを使って研究者の行う「観察」や「情報整理」のやり方を学んだのち、意見交換の専門的手法を使って、今持っている知識を引き出して人に伝えるスキルを学びます。
次に「モデル実験」を行い、実際に水鳥たちがどのように他の種の鳥たちと食べ物を同じ場所で食べているのかを体験します。この実験の結果を数値化してグラフにまとめ、他の鳥のデータと比較する作業をしながら、研究の現場では、動物に関するデータを集めるときには数学を使うということを学びます。さらに実際の湿地により近い条件でモデル実験を重ね、その結果のデータを分析します。これにより、水鳥たちの適応と湿地の多様性との関係をまなび、実験データの数学を用いた分析結果から、実際の水鳥たちの生態を予測することができるということがわかります。
このように学習を進めながら、情報の収集とコミュニケーション力、プレゼンテーション力、リーダーシップ、集中力、主体性と協調性、表現力、段取りや組み立てなどのスキルを身につけていきます。
(2)魚をつくろう!(小学校4年生対象・海中林)
魚類を題材に「適応」と「多様性」を学ぶアクティビティです。魚という生物は、500 万年以上前に初めて出現してから変化を繰り返し、現在では驚くほど多くの種が生息し、数え切れないほど多様な形に変化をとげています。こうした形や姿はどれも、魚が食べ物を食べ、泳ぎ、捕食者から身を守り、生息する場所で繁殖していくための適応です。魚たちの適応は、魚の大きさ、体や尾の形、配色パターン、口の位置、歯のサイズ、鰓耙(さいは:えらの一部)のカテゴリーで分類することができます。こうした魚の適応をくわしく観察することによって、魚類の行動や、海という環境でどのように生息地を選択しているかについて、予想することができることを学びます。
アクティビティの大まかな流れ
このアクティビティでは、写真やビデオ、本物の魚を使用し、キー・コンセプトである「魚は、様々な姿かたちや色をしていて、彼らの生息環境に適応している。それを見ると、その魚がどこに住んでいるかを予想することができる」ことについて学んでいきます。
アクティビティは、子どもたち自身がすでに持っている知識を確認し、それを仲間と共有するところから始めます。そこから疑問を見つけ出し、答えを探していきます。その過程で、科学の方法の中でもとくに大切な「仮説を立てて調べる」ことを学び、わかったことを発表することも体験します。
このような進行の中で、情報の収集と整理、推測、観察と記録、コミュニケーション力、プレゼンテーション力、主体性と協調性、 表現力などのスキルを学んでいきます。
(3)サメとの遭遇(小学校6年生対象・島嶼)
「ある湾のサメの個体数調査をする」という課題をテーマとして、科学的調査のシミュレーションを体験し、そこから生物多様性や水産資源問題、環境問題などについて考えるアクティビティです。
サメは、約4億年にわたってほとんど姿を変えることなく存在し続けてきたことから、歴史的に、「進化の成功例」とされてきました。このサメが、世界中でおこなわれている無秩序な漁業によって危機に瀕しています。サメに何が起こっているのか、それを解明するのに必要な科学的な手法を学び、自分たちにできることを考えていきます。
アクティビティの大まかな流れ
このアクティビティは、サメに関する既有知識を確認し、情報整理することから始めます。グループ内で意見を交換しながら自分がサメについて「知っていると思っていること」を確認し、他のグループで挙がった考えを集計して全体の傾向を見てみていきます。
次に、ある湾のサメの個体数を知るという課題が与えられ、それを解くための手法・手段を考えながら科学的にデータを集める方法を学びます。実際にシミュレーション調査を体験し、結果を数値化し、調査データの精度を考えます。この体験を通して、実際の科学研究の現場で行われている生物数を調査するモニタリングの手法や手順を知り、また、そこから得られるデータのとらえ方を学ぶことができます。さらにその調査データを分析することで、湾のサメに起こっていることを明らかにし、現実に起こっている事象と結びつけることで、身の回りの環境問題を考えていきます。
このような進行の中から、情報の収集とコミュニケーション力、プレゼンテーション力、リーダーシップ、集中力、主体性と協調性、表現力、段取りや組み立てなどのスキルを身につけていきます。