調査研究プロジェクト
生物多様性研究の業績は事業実績ページでご覧ください。
海研には、研究者が在籍しており、生物多様性に関する研究を行っています。研究者個人を主体とした研究も数多くありますが(研究実績に詳細が掲載されています)、ここでは、海研として実施あるいは参加した調査研究プロジェクトについて紹介します。
1.海岸飛沫転石帯に生息する十脚甲殻類相の解明
琉球列島の自然海岸には、潮間帯上部〜潮上帯(飛沫帯)にかけて、死サンゴ塊や石灰岩片が集積した「転石帯(=飛沫転石帯)」が存在しています。しかし、今日では、護岸工事や道路拡張工事などの影響によって飛沫転石帯の環境は急速に失われています。そこで、海研では、2008年度にWWFジャパンの南西諸島生物多様性評価プロジェクトの現地調査助成による援助を受け、琉球列島の島々(奄美大島,加計呂麻島,沖縄島,南大東島,宮古島,多良間島,石垣島,竹富島,小浜島,波照間島,与那国島)において、飛沫転石帯に生息する十脚甲殻類相についての調査研究を行いました。
その結果、「飛沫転石帯」は、1)ヤシガニやオカガニ類の幼体の重要な生息環境であることや、2)ヤエヤマヒメオカガニのように飛沫転石帯を主な生息場として利用する種が存在することなどが明らかになりました。
関連文献および学会発表
- 鈴木廣志・藤田喜久・組坂遵治・永江万作・松岡卓司, 2008. 希少カニ類3種の奄美大島における初記録. CANCER, 17: 5-7.
- 永江万作・藤田喜久・鈴木廣志・組坂遵治・松岡卓司, 2008.奄美大島および石垣島の飛沫転石帯に出現するカニ類.第46回日本甲殻類学会大会,鹿児島.
- 藤田喜久・永江万作・組坂遵治・松岡卓司・鈴木廣志, 2009. 琉球列島の飛沫転石帯に出現する十脚甲殻類について. 沖縄生物学会 第46回大会, 名桜大学.
2.沖縄島の大浦湾における十脚甲殻類相の解明
沖縄島の東部沿岸には、遠浅で内湾的な環境の場所があります。しかし、これらの内湾的な環境は、埋め立てや水質汚染などの社会的・人為的影響を受けやく、十分な学術的研究が行われないまま、年々環境が悪化している状況にあります。そこで、2008年10月〜2009年6月にかけて、WWFジャパンの「南西諸島生物多様性評価プロジェクト」現地調査支援を受けて、沖縄島の大浦湾において、十脚甲殻類の種多様性を解明するための大規模な採集調査を行いました。この調査では、国内の十脚甲殻類の分類学者5名による調査チームを結成し、さらに地元のダイバーや大学生などにも参加してもらうことで、効率的に調査を行うことができました。
のべ10日間の調査の結果、61科241属496種の十脚甲殻類を得ることができました。また、それらの中には,少なくとも36種の未記載種および25種の日本初記録種と見られる標本が含まれていました。加えて,口脚目(シャコ類)についても4科8属14種(3未記載種,4日本初記録種を含む)が記録されました。この結果は、2009年11月にマスコミ等に大きく報道されました。
関連文献および学会発表
- Naruse, T., Fujita, Y., & Ng, P.K.L., 2009. A new genus and new species of symbiotic crab (Crustacea: Brachyura: Pinnotheroidea) from Okinawa, Japan. Zootaxa, 2053: 59-68.
- 藤田喜久・大澤正幸・奥野淳兒・駒井智幸・成瀬 貫, 2009. 沖縄島大浦湾における十脚甲殻類の種多様性. 日本サンゴ礁学会第12回大会, 本部町(沖縄県).
- 藤田喜久・大澤正幸・奥野淳兒・駒井智幸・成瀬貫, 2010. 沖縄島大浦湾における十脚甲殻類の種多様性研究:調査の概要と意義. 第48回日本甲殻類学会大会,沖縄 (琉大:2010年11月12〜14日).
- 大澤正幸・駒井智幸・成瀬貫・藤田喜久, 2010. 沖縄島大浦湾から採集された砂泥底内在性の口脚・十脚目甲殻類. 第48回日本甲殻類学会大会,沖縄 (琉大:2010年11月12〜14日).
- 奥野淳兒・世古徹・津波古健・白川直樹・山田祐介・藤田喜久, 2010. 沖縄島大浦湾におけるテナガエビ科カクレエビ亜科エビ類の多様性. 第48回日本甲殻類学会大会,沖縄 (琉大:2010年11月12〜14日).
- 藤田喜久・成瀬 貫, 2010. 沖縄における生物多様性研究:その意義と社会的インパクト. 日本サンゴ礁学会第13回大会(筑波, 2010年12月2日〜5日).
3.宮古島の陸水域における希少生物の生息調査
琉球列島の南部に位置する宮古島は、島の大部分が琉球石灰岩で構成されていて、湧水・洞穴地下水・陸封潮溜などが島の随所に見られます。このような環境には特殊な生物が生息することが知られていますが、これまで、宮古島における調査知見は極めて少ない状況でした。また、宮古島は主に琉球石灰岩で構成されていることから、かつて島が海中に沈んでいたと考えられていましたが、2000年代に入って純淡水性動物であるミヤコサワガニが発見されるなど、古地史を再考する必要性が生じています。宮古島は、琉球列島の古地理や生物相の成り立ちを考える上でも重要な島だと考えられています。しかしその一方で、近年、宮古島においても土地改良や地下水の汲み上げなどによって地下水環境が悪化してきており、早急な保護対策が求められる事態となっています。
このような状況を受け、2008年度に、環境省の委託により、宮古島の湧水域における陸水産生物の調査研究を行ないました。十脚甲殻類を主に、研究史、種の特徴の記述、分布及び生息状況の把握について、報告書にまとめました。なお、生息地および生物の保護保全の観点から、この調査報告書は一般公開されていません。
4.久米島海洋生物合同調査 KUMEJIMA2009
久米島海洋生物合同調査 KUMEJIMA2009は、琉球大学、国立台湾海洋大学、シンガポール国立大学の三研究機関間 で取り交わした共同研究協定を軸に、2009年11月に約 2週間にわたって実施された大規模な国際合同調査です。この調査には、計7カ国17研究・関連機関から総勢50人以上の研究者、地元の久米島町漁業協同組合、久米島町教育委員会、地元ダイバーの方々が参加し、国内でも稀に見る規模の調査となった。海研も研究者を派遣し、調査だけでなく、現地コーディネートや調査見学会の企画にも携りました。
その結果、現在までに、甲殻類・軟体動物・ 棘皮動物・魚類などから、少なくとも51未記載種と74日本新記録種(数字は新聞報道資料による)を確認するという、大きな成果が上がっています。
関連文献および学会発表
- 木暮 陽一・藤田 喜久・成瀬 貫, 2010. 本邦南西海域におけるヒトデ相の解明に向けて:2009年度久米島海洋生物合同調査「KUMEJIMA2009」の概要. 日本動物分類学会第46回大会, 国立科学博物館分館, 東京(2010年6月5〜6日)
- 下村通誉・藤田喜久・成瀬貫, 2010. 久米島の海底洞窟から発見されたミクトカリス目の1未記載種. 第48回日本甲殻類学会大会,沖縄 (琉大:2010年11月12〜14日).
- 藤田喜久・成瀬 貫, 2010. 沖縄における生物多様性研究:その意義と社会的インパクト. 日本サンゴ礁学会第13回大会(筑波, 2010年12月2日〜5日).
5.久米島応援プロジェクト
海研は、2009年からWWFジャパン「久米島応援プロジェクト」に参加しています。
「久米島応援プロジェクト」は、WWFジャパンが三井物産環境基金による助成を受けて、海洋生物学の専門家(海の自然史研究所)、赤土流出調査の専門家(国立環境研究所・沖縄県衛生環境研究所)、地域協議会運営の専門家(沖縄県環境科学センター・自然環境研究センター)によるプロジェクトチームを編成し、久米島における地域主体の赤土流出防止活動を様々な形で支援することで、より効果的で持続的な保全活動の実現を目指すものです。プロジェクトチームには、地域振興の専門家(WWFジャパン サンゴ礁保護研究センター)や社会学の専門家(お茶の水女子大学)、広報宣伝活動の専門家(博報堂アーキテクト)も加え、地域コミュニティの活性化にもつながるような取組みの推進も目指しています。
1)河川生物調査
久米島の河川生物の現状を把握することを目的として、儀間川と白瀬川に調査地点を設け、魚類、甲殻類、貝類、水棲昆虫類などの生物の分布と現存量についての調査を行なっています。2010年8月に第1回目の調査が実施され、2010年度の冬期に第2回目の調査が予定されています。久米島の河川生物については、1980年と1981年に先行調査研究が実施されていて、今回の調査も当時の調査地点とほぼ同じ地点で行なっています。これによって、30年の時間の経過による河川環境の変化と生物相との関係を明らかにしようと考えています。
2)ナンハナリのサンゴ群集調査
2010年に久米島の沿岸(ナンハナリ)において、水深15〜35mの海域に広がる大規模なサンゴ群集が確認されました。このサンゴ群集は、2009年8月に久米島の漁業者とダイビングインストラクターによって発見されていましたが、その後、2010年4月に海研の研究者の潜水調査によって確認されました。その後、久米島応援プロジェクトに参加する他の研究者や日本造礁サンゴ分類研究会の研究者が調査に加わり、このサンゴ群集に関する調査を進め、持続的な利用を考慮した保全のあり方を模索しています。
このサンゴ群集は、水深15〜40mの深所にあり、幅(岸から沖方向)が約200m、長さ(岸に平行)が約1200mの範囲まで分布していることが確認されています。また、この群集は、ヤセミドリイシの単一種で大部分が構成されていることが分かってきています。
関連文献および学会発表
- 木村 匡・下池和幸・鈴木 豪・仲与志勇・塩入淳生・藤田喜久・山野博哉・浪崎直子・横井謙典・小笠原敬・安村茂樹, 2010. 久米島沖の中深度に生息する造礁サンゴ大群集. 日本サンゴ礁学会第13回大会(筑波, 2010年12月2日〜5日).